RICOH GRⅡ
その小さなBarは8年前、ひっそりとオープンした。
場所は大阪・浪速区元町。当時その界隈はまだ24時間スーパーやタワーマンションはなく、JR貨物駅の跡地が広がる香料とした町だった。そんなミナミの外れにその店はオープンした。
黒と茶色と貴重にした店内には重厚なカウンターと座りやすい椅子。壁にかけられた大きめの液晶テレビでは映画がいつも流れていた。そこで二人の男がシェイカーをふっていた。初めて行ったのはいつだったのか思い出せない。酒が飲めないから一人ではなかったのだろう。若いバーテンダーが作るパスタのうまさと、酒場の店主らしからぬマスター北山さんの人柄に惹かれ通うようになった。 性格もキャラクターも違う二人のバーテンダーのコントラストは絶妙だった。
当時、30代前半で、深夜まで仕事で駆け回り、店に入るのは午前零時を回ってから。ジンジャーエールを飲みながら、とびきりうまいクリームパスタを食べた。通っているうちにカウンターに座る常連さんらとも顔見知りになった。年齢も性別も、職業も違う仲間との会話は仕事の緊張をほぐし、視野を広げてくれた。仕事の話、恋愛の話、何も話題がなくてもそこにいるだけで落ち着けた。いつしかそこで「近所づきあい」と呼べるような関係も生まれた。<ミナミでの近所づきあい>があることに会社の同僚は驚いた。
そのうち、同じカウンターにお客として座っていた年上の仲間が、マスターの支援もあり、近くで夢であったお店を開店させた。笑いに包まれ、選び抜かれたワインが飲めるそのBarは遠くからもお客が訪れる店となった。そして、4年間マスターと苦楽をともにした若いバーテンダーも卒業し、店を持った。もちろん近くで。兄貴分となった若きバーテンダーの店には若者が集う。
点と点が線になり、そして面になった。いつの間にか荒涼とした元町界隈が住み心地のいい、かけがえのない町になった。
ここで知り合い結婚した男女がいた。遊びに行った。旅行にも行った。店内がめちゃめちゃになるほどの喧嘩もあった。料理コンテストもやった。ここで写真の楽しさを知り、カメラを買った人も多い。写真コンテストも軌道に乗り始めた。ゴルフコンペは恒例になった。ゴルフに行った翌日、ほぼ確実にマスターは店を休んだ。それでも、だれもがずっとこのままだと思っていた……。
2012年6月21日、午前5時。「Bar 4gs (For god’s sake)」は閉店した。
最後の日は、多くの仲間とともに8年間分の時間がぎゅっと詰まった暑いけど、ゆるやかで、ぐだぐだな時間が流れた。いつものように寝ている仲間もいた。素敵な時間だった。
北山さんが店に張り出したのは「閉店」ではなく「解散」。
解散=集まっている人が別れ散ること。
別れ散れば、再び集まることもできる。終わりではない。北山さんらしい。たくらむことの好きな北山さん。次のたくらみが発表されるまで待つことにしよう。
「Bar 4gs 解散 !」